森きいこ「天籟日記」

藤原霞

「天籟日記」の語り手。

1884年（明治17年）東京生まれ。貿易商を経営する父とイギリス人の母を持つ。

アンドリュー・ブルー

通称ドリュー。

1882年スコットランド生まれ。伯爵家の使用人夫婦の長男。14歳の時から船員として働き、現在は熟練船員(able seaman)として地中海航路の客船に乗務している。下に3人の弟妹がいる。

墨（ムオ）

天籟国から付き従っている静麗姫の侍女。

1886年生まれ。天涯孤独の身の上らしい。

天静麗（ティエン・ジェンリー）

天籟国の第三公主（王女）。先祖代々、不思議な力を受け継いでいる一族の末裔。クリークヴァルト公国の公太子フリートヘルト・フォン・イスベルバシュと結婚するため、船でヨーロッパに向かっている。

　西暦1900年。日本人とイギリス人の間に生まれた少女、霞は、父の商用旅行に同行してエジプトのポートサイドにやって来た。そこで霞は、清とベトナムの間にある小国、天籟国の公主、静麗姫に出会う。静麗姫はクリークヴァルト公国との政略結婚のため、ヴェネチア行きの船に乗るところだった。

　ヴェネチア行きの船の中で静麗姫の話し相手になって欲しいと頼まれた霞だったが、行動力の塊のような船員ドリュー、そして静麗姫に影のように付き従う侍女のムオが引き起こした騒動に巻き込まれて・・・

位置：清と越南の境、鬱江の上流、右江が南寧の先で山に入っていく辺りから川筋を外れて一山越えた辺りにある。直径およそ70km程度の領域を領土としている。ほとんど領内に平地は無く、唯一の平地らしい平地が首邑である天籟。

言語：天籟語（タイ語系）、広東語、北京語、天族語（系統不明）

民族：天籟族（タイ族系）、漢族

歴史：春秋時代、現在の上海の辺りにいた巫女の一族である天氏が鬱江流域まで南下し、土着のタイ族系の豪族と結びついて建国。戦国時代の終わりに名目上は秦の支配下に入ったものの、実質的には独立国であった。その後も名目上は南越や漢、唐、宋、元、明、清の版図であったり属国であったりしたものの、国内政治は一貫して天氏による王制。中国の歴代王朝から亡命者を数多く受け入れてきているが、亡命者は天籟に入国する際に姓と系図を捨てることが義務付けられている。これは旧王朝の王族として中央に対し反乱を起こす可能性を抹消するため。

政治：王族である天氏が双系で王位を継承している王制。大清の属国とされているが、朝貢などはしていない特殊な立場。何故そのような立場が可能なのかは、これから続編の中で少しずつ明らかになるはず。天氏は故地で話していた独自の言語を持っているが、現在は天氏しか使わない。王位は長子が相続し、祭祀は女性の長子が行う伝統がある。長子が女性の場合は女王となり、祭司を兼ねる代もある

文化：中国の王朝が易姓革命によって交代した時、倒れた王朝の王族や貴族が最後に目指すアジールの役割もあったので、漢から明まで歴代王朝の貴族文化が流れ込み、天籟族の民族文化と融合を重ねている。特産品として天籟更紗があり、最高級品は世界中の富豪が争って求める。

産業：農業・手工業・鉱業

位置：ドナウ川中流域、現在のドイツ連邦共和国のバイエルン州パッサウ郡、フラウイング＝グラーフェナウ郡、オーストリアのオーバーエスターライヒ州ローアバッハ郡の辺り。

言語：高地ドイツ語系バイエルン・オーストリア語

民族：ドイツ人、チェコ人、アシュケナジム系ユダヤ人、ロマ等

歴史：16世紀末にイスベルバシュ家がクリークヴァルト方伯領を相続によって継承し、1656年にループレヒト・フォン・イスベルバシュが神聖ローマ皇帝フェルディナントIII世によって公爵(Herzog)に陞爵されて成立。神聖ローマ帝国の解散後はドイツ連邦に加盟。1867年にドイツ連邦から離脱して永世中立国を宣言。

政治：クリークヴァルト公爵(Herzog von Kriegwald)を君主とする君主制。現在の公爵はゴットホルト・フォン・イスベルバシュ。1900年にゴットホルトの長男フリートヘルトが天静麗と結婚。

産業：農業・岩塩鉱・手工業